花が持つ力を最大限に引き出して、誰も見たことのないブーケや装花をつくる。驚きと余韻を感じさせるフローリスト・富永彩花

更新日:2021.10.01

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結婚式やウェディングフォトの主役は新郎新婦。でも、まるで魔法のように会場の雰囲気を一変させるのが、花の存在です。見た人が思わず「かわいい!」と声をあげるようなブーケや会場装花を手がけるフローリスト、富永彩花さん。
日本で最多組数のウェディングフラワーを扱うHIBIYAKADANが運営する「フラワークリエーションルーム」の中で指名数トップを誇るエグゼグティブフローリストとして活躍する富永さんに、フローリストとしての揺るぎない想いについてお話を伺いました。

花はふたつとして同じものはない。花の世界の奥深さにどっぷり浸かり、腕を磨いた

富永さんのお花の世界観が素敵すぎて、写真を見ているだけでもテンションが上がります。聞きたいことはたくさんあるのですが、まずはなぜフローリストになろうと思ったのかおしえてください。

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富永 もともとは小学校の教員になろうと思っていて、教員免許も取得しました。でも教員になる前に、会社で働いていろんな世界を見たほうが、教員としての視野が広がるのではないかと考えました。その方が、生徒たちに教えられることも広がるんじゃないか、って。
そんな中、日比谷花壇という会社に出会いました。

小学校教員から花を扱う会社というのは方向性がまったく違うように感じるのですが、どうして日比谷花壇を選んだのですか?

富永 花は対象を選ばないので、花を扱うことでいろいろな業種の方たちと出会い、多様な世界を知ることができそうだと思ったからです。
そうして会社ではブライダル配属になり、フローリストとしてお仕事をするようになりました。

富永さんが手がけたブーケや装花は、特に色合いというか、世界観が独特で、伝わってくるものが強いですね。フローリストになって現在9年目とのことですが、これまでどのような道を歩んできたのでしょうか。

富永 結婚式のフローリストって、目に見えるものを売るのではなく、お客さんも私自身も見たことのないものを売っている仕事だと思います。「こんな感じ」という想像を形にしていくのがとても楽しくて。

会社に入って最初の頃は、特にお客様とのコミュニケーションなど、接客に力を入れていました。
もちろん、ブーケや会場装花を扱う仕事は楽しかったのですが、周囲にすごいフローリストの人たちがたくさんいて、当時、私は自分のつくる花に自信が持てないというか、コンプレックスがあったというか……。

でも4年目くらいになって、仕事にも慣れてきて、やっと自分らしいブーケや会場装花を作ってみたいと思うようになりました。この頃から、花と向き合うようになったんです。

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日本の中でも最大手の日比谷花壇という会社で花と向き合う中で、どのようなことを感じたのでしょうか。

富永 フローリストとしてまだ駆け出しの頃、結婚式雑誌の撮影で、あるブーケに出会いました。花のかわいさや配置が素晴らしいだけでなく、撮影現場にたまたまあった植物も即興でアレンジされていて、しかもそれが3日間の撮影のあいだ、ずっと美しいままに保たれていたんです。

それを作ったフローリストさんは「もし崩れたら直しておいてね」と颯爽と帰っていって、「うわ、崩れたらどうしよう」と自分が直せるか不安でいっぱいだったのですが、それがまったく崩れませんでした。
そのためには高い技術が必要で、たとえばテープを巻いて花がきれいに見えるように首を止めたりするのですが、その処置も完璧で。

そんな仕事を目の当たりにして、花の世界の奥深さ、目指すべき高みを感じました。

花は、切り方ひとつで変わります。花びらに触れたら傷だらけになってしまうので、扱いも繊細です。
初めてブーケを作ったときのことは今でも覚えています。作っているときにダリアに手が触れてしまって……。「あーこれは使えないね」って処分することになって、ショックすぎて泣きました。

また、葉っぱやつぼみの向きひとつでもかなり仕上がりが変わってきます。「どっちの向きがかわいいか、流れを見たらわかるでしょ」と先輩方に教えてもらったのですが、最初はわからなくて。

花の奥深さを感じて「私も上手に作れるようになりたい」と強く思いました。

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ブライダルだと特に、どの角度からも花を見られる場面も多いので、花の向きや角度は本当に難しそうです。どうやって覚えていったのですか。

富永 感覚です。もちろん、会社で基本の講座でフラワーアレンジメントを学びますし、研修や試験などもあります。でも、結婚式となると、教科書には出てこないような巨大な花のオブジェや、360度見られるようなブーケを作ることもあります。

花は、ふたつとして同じものはありません。最終的には勘を頼りにして、実際に花を差しながら、美しい向きやベストな位置を感覚的に理解していきました。

そんな風に経験を積み重ねてきて、初めて指名をもらえた時は、本当に嬉しかったです。インスタなどで私が作ったものを実際に見て、私を選んでくださったらしくて、やったー!という喜びと緊張が入り混じった気持ちになりました。

「しあわせの香りが届きますように」と送ったスイトピーのブーケが心を動かした

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これは、最近撮られたのお写真とのことですが、富永さん自身にとっても印象深いお写真と伺いました。エピソードについて教えてください。

富永 このご新婦様は、お仕事で出会った方です。ウェディング関係の教育をされている方で、いわばブライダル業界のプロの方なのですが、私のことを「この人がいい」と指名してくれて、その時は驚いたし、とてもうれしかったです。

お花の打合せのときに、花に興味がなかったご新郎様が喜んでくれたみたいで、そのことをとても感謝されて私も感激したのですが、実はそれ以上のご事情があったみたいです。 結婚式とは別に、入籍日にブーケを送ったんです。そのブーケにはいい香りがするスイトピーを選びました。「しあわせの香りがご新郎ご新婦様に届くといいな」という思いを込めて作りました。

これは、あとでおしえてもらったことなのですが、実は結婚直前にふたりの大ゲンカが原因で両家の両親を巻き込んでしまい、ご新婦様とご新婦様のお母さんは結婚式前に口もきけないほど仲がこじれてしまっていたようでした。

それは大事件ですよね。いちばん喜んでもらいたい人と結婚式のタイミングで関係性が崩れるのは辛いです。

富永 でも、ご新婦様は、届いたブーケの箱を開けて手にとったとき「お花が気持ちを変えてくれた」そうです。とてもいい香りがして、花が大好きなお母さんにそれをどうしても伝えたくなって、「こんなにかわいいお花をもらったよ」とお母さんに声をかけたそうです。

それがきっかけになり、素直な気持ちをお母さんに伝えたことで、仲直りできたそうです。
結婚式当日、「今日という日を迎えられたのは、富永さんのおかげです。こんなにお花の力を感じたことはありませんでした」って伝えてもらいました。
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それだけでなく、絶対に来て欲しいと言われていた結婚式で、マイクまで持たせていただけたんです。
本来、フリーリストは結婚式当日、ご新郎様ご新婦様の近くにいることはできません。カメラマンやヘアメイクの方はずっと近くにいるけど、フローリストは事前にブーケや装花を作るので、本来なら当日は影の存在です。

渡されたマイクで花の説明をしましたが、正直、話した内容は覚えていません。うれしすぎて動揺しました。後輩もいたのに私は泣きじゃくってしまいました。

富永さんのブーケが、ご新婦様とお母さんの心を動かしたのですね。

富永 はい。とても印象に残った結婚式でした。花の持つ力を強く感じさせられたし、この仕事をやっていてよかったと心から思いました。

花で、会場に入った瞬間の驚きと、終わったあとの余韻を

富永さんがフローリストとしてお仕事をするうえで、どんなことを意識されていますか。

富永 まず、打合せの時点で、すでにフローリストしての仕事が始まっていると考えています。
特にご新郎様に「お花の打ち合わせがいちばん楽しかった」と言われたいです。どうしてかというと、ご新郎様が楽しんでいたら、ご新婦様も喜んでくれます。
花の打合せはご新郎様が蚊帳の外になりがちなので、私は積極的にご新郎様を巻き込むようにしています。たくさん質問したり、ブーケの由来を伝えたりして、ご新郎様に「自分も関わっていいんだ」と気づいてもらいたいからです。

花の打ち合わせを、あとから「フローリストの人がおもしろい人だった」「こんなデッサン描いてもらった」って誰かに話したくなるくらいの楽しい時間になるように心がけています。

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それはおふたりどちらにとってもうれしいですよね。花のことをご新郎様と話せるのは、ご新婦様にとってとてもしあわせな時間になりますよね。

富永 あとは、ご新郎ご新婦様に喜んでいただくことはもちろんなのですが、結婚式当日のゲストの方たちの印象に残るようなブーケや装花を作りたいと考えています。誰も見たこのない配置、色、ボリューム……。「すごい会場!」「きれいなお花!」とシンプルに感動してもらいたいです。

インスタなど拝見すると、色の組み合わせが斬新というか、見たことのない花たちが並んでいて、目をひきます。

富永 ありがとうございます。パーソナルカラー検定の資格も取得していて、色にはこだわっています。
花で、会場に入った瞬間の驚きと、終わったあとの余韻を感じてもらえるようなフローリストでありたいし、終わったあとにも記憶に残る花や、そういう空間を準備したいです。

結婚式に参加したゲストたちが思わず写真を撮りたくなるような装花にしたいと常に考えています。結婚式が終わってからも、「お花、飾ってよかったね」とご新郎ご新婦様に思ってもらえたらうれしいです。

「私たちだけのために作ってもらったお花」と思ってもらいたい

お話を聞いていて、花が持つ力と可能性を感じました。特にウェディングでは花は絶対的な存在です。結婚式が終わったあとも、富永さんがデザインした花は、新郎新婦やゲストたちの記憶の中にずっと生き続けると思いました。

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富永 これからも、私に花をお願いしてくれた人たちに「私たちだけのために作ってもらったお花だった」と思ってもらえるような仕事がしたいです。

あとは、せっかくの結婚式なのでみなさんに楽しんでほしいし、私も楽しもうと心がけています。花を扱う仕事は、重かったり寒かったり、時に大変なこともあります。でも、どんな時も楽しむ気持ちを忘れないように心がけています。

また、結婚式場を花から選ぶなど、花の魅力が全開になるようなコーディネートをして、「花から選ぶウェディング」を促進するようなフローリストになりたいです。

アメリカ研修に行ったことがあるのですが、向こうはカトラリーも自由で、花をさりげなく置くだけでテーブルコーディネートが完成するんです。テーブルも椅子も、メニュー表も選べて、決まっていることがなにひとつありません。
日本のブライダル業界も、今後どんどん自由になっていったらいいなって思います。

今後、ブライダル業界全体が自由になればなるほど、フローリストの存在が大きなものになるのかもしれませんね。

富永 そうなるといいな、と思います。

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最後に、富永さんが、今いちばん好きな花をおしえてください。

富永 「セルリア」という花を知っていますか?ほんのりピンクに染まっている花で、花嫁が頰をほんのり染める色に似ていることから「ブラッシングブライド」という別名を持っています。
ワイルドフラワーなので、本来は野性味溢れるたくましい花なのですが、ほわっとしたピンクの繊細さもあって。結婚式の花嫁にぴったりの花です。
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そうそう、実は、打ち合わせをしてから花のデッサンを描いているとき、人に指摘されて初めて気づいたのですが、私、無意識に歌っているみたいなんです(笑)

当日を想像して、その世界に入っちゃってるんですよね。花は毎年、新しい品種が登場しているので、とてもわくわくします。誰かのために花を選び、想像を形にするこの仕事が、とても好きです。

フローリスト【富永彩花】profile

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日本で最多組数のウエディングフラワーを手がけるHIBIYAKADAN 中でも優れたフローリストのみが集うフラワークリエーションルーム指名数トップのエグゼクティブフローリスト

女性からの「可愛い!」を引き出すpinkコーデ、 鮮やかな色彩で目を惹く多色使いが得意です。
花々しく、見ていていると気分が上がり、幸せな気持ちになれるデザインを作りたいと思っています。
思い出す幸せな結婚式の日の風景が、お花で彩られた記憶になりますように。

富永さんについて詳しく知りたい方は
こちら

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富永 彩花

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