新郎新婦の個性を引き出し、2人の世界観を創り上げていく。まっさらな感性で自由な発想を形にするヘアメイク・片岡起久江

更新日:2021.10.01

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結婚式でドレスに包まれた新婦、時には新郎をより一層引き立てるのがヘアメイク。豊富な経験と柔軟な発想で、結婚式を迎える2人を楽しませ、世界観を創り上げていくヘアメイクの片岡起久江さん。
「経験や常識で決めつけるのではなくて、もっと自由な発想を大切にしたい」と語る片岡さんに、ヘアメイクの仕事への向き合い方やインスピレーションについてお話を聞きました。

「やらない後悔よりやって後悔」と飛び込んだヘアメイクの世界

片岡さんのヘアメイクやスタイリングは、自分では真似できそうのないアーティスティックなものばかりで天性の感覚を感じます。どうしてこのお仕事を選んだのですか。

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片岡 ファッションや美容にはもともと関心があって、ヘアメイクなど美容に関わる仕事をやってみたいなという気持ちはありました。

この仕事をする前は、歯科衛生士として働いていました。でも、ヘアメイクの仕事への憧れが捨てきれなくて、2年、3年と仕事を続けていく中で本当にこれでいいのかな?という気持ちが重なっていきました。

私なんかがヘアメイクの仕事ができるのかな、という不安もありましたが、やらずに後悔するよりやって後悔する方がいいと思い、歯科衛生士をやめてこの世界に飛び込みました。

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歯科衛生士からヘアメイクってかなりの異業種なので、とても勇気が必要だったのではないでしょうか。最初からブライダル業界を選んだのですか?

片岡 最初は地元名古屋のヘアメイク学校に入学して基礎を学び、その学校でインストラクターになりました。そのうち、知り合いの美容院の人がヘアメイク事務所を立ち上げる時に声をかけてもらえたんです。「現場も経験してみたいな」という気持ちがあったので、美容院に勤めながらヘアメイク事務所に所属するという形になりました。

そこでブライダルの現場で仕事するようになったのですが、自分のライフイベントもあって名古屋を離れることになり、地方の結婚式場で働くことに。ヘアメイクもドレスもトータルで担当するような感じです。その仕事を経て、フリーランスのプランナーがたくさんいるプロデュース会社に就職しました。結婚式のアイテムを扱うサロンでマネージャーとして仕事をしながらヘアメイクアーティストとしての経験を積み、独立して今に至ります。

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お話を聞いていると、転職から順調にキャリアを積み重ねている印象です。たくさんの現場を経験されていますね。

片岡 はい。でも会社員時代は、実は少し焦りもありました。プロデューサーやディレクターとして仕事することが多かったので、現場に出られないことも多くヘアメイクとしての腕が鈍るのではないかという不安もあったんです。

でも今思えば、現場に出られない期間があったおかげで、ヘアメイク以外のことにも広く目が向くようなったと思います。独立して、ヘアメイクとして例えばブライダル以外のご依頼を頂いたときなど、俯瞰で現場を見られるようになったといいますか。結果的に現場に出ない時間はとても有意義なものだったと感じています。

常識や経験にとらわれない、自由な新しい発想を形にする

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これは、片岡さんご自身にとって印象深いお写真と伺いました。そのときのエピソードについて教えてください。

片岡 ヘアメイクの仕事をしていく上で「今まで、経験が邪魔していたな」と、より深いところに気づいた1枚です。着物会社の新作カタログ撮影でした。

和装の角隠しは、通常、日本髪と合わせます。
でも「ボブのヘアスタイルに角隠しをつけたい。新しいことをしたい」というクライアントのご希望があったのですが、角隠しって日本髪の髷(まげ)の天辺に帯を固定するんですよね。

今までの経験が故にボブのストンとした質感に角隠しなんて、という固定観念があったのですが、なんとか試行錯誤をして撮影だったらできるかもと思って挑戦したんです。見たことのないものだったので作るのが難しかったのですが、ウィッグで試してみたときに「できる気がする!」と感じました。

今まで見たことがない斬新なスタイルに驚きました。髪と着物の色のバランスも新鮮で、とてもすてきです。

片岡 ありがとうございます。結果的にとても可憐なスタイルを表現できて、着物会社の方にも気に入ってもらえました。
自分の中でも、業界の常識やこれまでの自分の経験が邪魔して、考えが凝り固まらないようにと心がけていてもやっぱり凝り固まっていたなと発見があった仕事でした。

でも、過去には経験や常識に捉われていた苦い経験もあって。
ブライダルフォトの撮影で、ご実家近くの畦道で撮影をしたい、というご新婦様がいました。背景に対してのドレスに違和感があって、どのようなヘアメイクがベストなのかわからなくなってしまいました。
どうしたらすてきな写真が撮れるか、という思いに捉われすぎていたんですね。

でも本当は、ご新婦様がここで育ってお嫁さんになった、という風に「透けて見える時間の経過」を写真にしたかったんですよね。生きてきた過程をじっくり見返したいという思いがあったんです。

このことがあって、経験や常識で決めつけるのではなくて、もっと自由な発想や柔軟な気持ちで、目の前の人たちがなにを見ているのか、どんな世界観を表現したいのかを知り、ヘアメイクでできることを考えていきたいと思いました。

「この人に任せたら当日きれいになれるんだ」という信頼感

普段、片岡さんがヘアメイクとしてお仕事をするうえで、どんなことを心がけていますか。

片岡 たくさんの現場経験から、ご新郎ご新婦様が選んだアイテムには必ず、結婚式に対する想いや考え方が反映されています。ヘアメイクはもちろんですが、ドレスや小物、花…選んだものを見ると、結婚式で実現したい世界観が透けて見えてきます。それらを俯瞰で見て、最後の仕上げとしてトータルバランスを考えながらヘアメイクに落とし込むように心がけています。

それから、やりたいメイクと、その場に合うメイクは少しちがうこともあります。そのギャップを、逆算して埋めることも私の仕事だと考えています。
たとえば「ナチュラルなすっぴん風メイク」をご希望されていたとしても、ホテルの会場で人数が多いとすっぴん風メイクは違和感となる場合があります。私にとってはイメージできていることでも、ご新婦様には初めてのことなので、そのフォローはしっかりとさせていただきます。

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その場に合う・合わないメイクは、素人にはわかりにくいことなので、それはとても安心です。「その人に似合うメイク」はどのようにして見ているのですか。

片岡 その人のことをよく見ます。普段どんなメイクをしているのか、どんな喋り方をするのか、どんなものが好きなのか。たくさん話をしたい人、そうじゃない人両方いらっしゃるので、その人のペースに合わせて話をして、個性や性格をよく見るようにします。

あとは選んだドレスや小物もそうですが、結婚式当日の会場、お客さんの数、高砂があるのかないのか…。そういったしっかりヒアリングはしつつ、心をゆるめる時間というか、話してもらえるような雰囲気を大事にしています。
「この人に言ったらわかってもらえるんじゃないか」と信頼してもらえるように手筈を整えていく感じです。

幅広く話を聞いておくことが、ヘアメイクを決める基準になります。会場がホテルなのかガーデンなのか、どんな照明なのかで大きく変わってきます。衣装の種類や雰囲気にも合わせていきたいですしね。

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自然界からのインスピレーションをヘアメイクで表現することも

ヘアメイクって人それぞれなのでバリエーションは無限だと思うのですが、毎回のアイディアはどうやって思いつくのですか。

片岡 いつもできるだけ自分をまっさらな状態に置くようにしています。
経験を積むと、自分でも無意識のうちに「ブライダルとはこういうもの」とカテゴライズしてしまいがちですが、そういう感覚を解放して自由に表現していきたいからです。

そのためには、あえてあまりブライダルを見過ぎないようにしているかもしれません。そのかわり、映画や本からたくさんインプットをするようにしています。
例えばガーデンでヴィンテージドレスを着るなら、「ヴィンテージドレスの年代に合わせて、ヘアはカーリーボブ にしよう。でもガーデンだから太陽に映えるような透明感をプラスしたいな」などと考えたり、普段どれだけインプットしているかが、ヘアメイクを考えるための材料になるので。

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その考えを聞いているだけでもわくわくします。たしかに、映画からはその時代当時のヘアメイクや雰囲気がわかりますよね。それを知っているのと知らないのではアイディアの幅も大きくちがいますね。

片岡 あとは、自然界の色の組み合わせなどの普段の生活の中からもインスピレーションをもらっています。ちょっとおもしろいなと感じた組み合わせをヘアメイクで表現したりします。
たとえば、あじさいの花に雨粒が乗ってキラキラしている瞬間がありますよね。それを見て、「メイクで表現するなら、水色をひいたところにキラキラのシルバーを乗せるかな」とか。私、自然を普通に鑑賞していないかもしれません(笑)
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ブライダルの現場では、常にその人がイメージしているもののちょっと上をいきたいと思っています。
たぶんみなさん「自分の顔だったらこれくらいになるかな?」って想像していると思うのですが、ちょっとだけ発見をしてもらいたいんです。
「え、こんな風になるんだ」「こんなに肌を綺麗に見せられるんだ」って、驚いてもらいたいです。

ヘアメイクって、特に女性にとっては自分で自分のご機嫌を自分で取れるツールだと思います。
その楽しさを伝えたくて、いろんな年代の方にワークショップやレッスンもしています。ご新婦様はもちろんですが、女性先般にメイクの楽しさを伝えたいし、女性だけではなく男性にも伝えたいです。

結婚式でも新郎にメイクをすることはあるのですか?

片岡 最近はご新郎様でもメイクに抵抗のない方が増えてきました。これは私調べですが(笑)、30代前半以下の世代の男性の方たちはメイクに抵抗がないだけでなく、興味を持ってくださる方も多いです。

ヘアの流れで眉毛を整えたえりするのですが、それだけでも顔つきが変わりますよ。「これから挙式するんだ」「撮影するぞ」と気持ちが向かうきっかけにもなりますよね。
ご新郎様にもメイクをしたほうが2人並んだときにバランスがよくなるので、男性のメイクも大切にしています。せっかくの結婚式ですしね。

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最後に、今後のブライダル業界についての片岡さんのお考えをお聞かせください。

片岡 最近、ブライダル業界でも確実に選択肢が増えてきました。今まではお決まりコースのようなものがあったけど、だいぶ柔軟になってきましたよね。

でも選択肢が増えたぶん、逆に難しい部分も出てくると思います。
結婚式を挙げる2人にとって納得感のある選択を考えないといけなくなってきたからです。

たくさんのご新郎ご新婦様に出会ってきて、価値観は本当に多様だと感じました。どんな結婚式をしたいのか、結婚式に対する考え方、どこにお金をかけるかなど、それぞれのご新郎ご新婦様でまったく違いました。
ブライダル業界も、その違いに対応して、いろいろな人がいろいろな選択をできるようにいられたらいいな、と思います。
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もしかしたら、これからどんどんオーダーメイドの結婚式が多くなるのかもしれません。
私個人としては、ご新郎ご新婦様に対して「無理」とか「できない」という言葉を使いたくないと考えています。2人の「やりたい」を形にできるように、いつでもまっさらで柔軟でいたいです。

ヘアメイク【片岡起久江】profile

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ヘアメイク学校のインストラクターの後、ヘアメイクアップアーティストとして事務所に所属。

その後、写真・ドレス・スーツ・ギフトなど様々なウェディングアイテムを扱うブライダルサロンのディレクターとして、ヘアメイク&フォトスタイリングの他、ドレスのデザイン提案や商品開発・イベント企画など花嫁のトータルスタイリングに携わる。

現在は、少数精鋭のウェディングヘアメイクチーム【EIKU】を立ち上げ、自分自身を楽しめる遊び心ある花嫁のために、様々な視点からの提案と経験に基づいたサポートができるよう日々活動しています。

名古屋にあるアトリエではメイクレッスンも行っていて、私たちとの出逢いをきっかけに『自分自身を楽しめる』お手伝いができたらいいなと思っています。

片岡さんについて詳しく知りたい方は
こちら

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片岡 起久江

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