【離島で結婚式②】豊島、直島、小豆島の持つ力を装花や演出に活かし、一流フローリストの元で学んだ技術で表現する。フリープランナー・藤内留美さん

更新日:2021.10.01

画像

豊島、直島、小豆島の素朴な風景にマッチした、清らかに咲き乱れ人々の心を湧き立たせる結婚式会場の装花…楚々とした花々や自然のアイテムを使い、新郎新婦とゲストの心に静かな深い感動を与えるデコレーションをすべて手がけるのは、なんとウェディングプランナー本人です。式場の専属プランナー時代に雑誌に載っている華やかな世界を表現できない悔しさから、憧れの世界に飛び込み自らフローリストとしての経験を積んだ【Fleur Des Pois(フルール デ ポワ)】の藤内留美さんは、フリープランナー兼フローリストに。最高の結婚式を作りあげるために積んださまざまなキャリア、技術と知識を活かし、一切妥協のない統一感のある世界観を作り上げていきます。

「装花で結婚式の世界を表現したい」キャリアをリセットしフローリストへ

画像

藤内さんはウェディングプランナーと兼任して豊島、直島、小豆島での結婚式会場、パーティ会場の装花や装飾をご自身で行っています。ウェディング業界は14年のキャリアとうかがっていますが、プランナーでありながら、なぜ途中フローリストとしての技術を専門的に学ばれたのでしょうか。

藤内 プランナーを始めて6年たった頃、コンセプトウェディングやオリジナルウェディングが話題になり、つくり込まれたウェディングの装飾が注目されました。
「自分もこんな世界観を作ってみたい!」「おふたりの希望を叶え結婚式のレベルを引き上げたい」と、所属していた会場の専属の花屋と何度も話し合いを重ねました。

でも当時、自分がいた徳島の環境では、求める世界を作るのは難しかったです。
自分でできる部分はやろうと、空いている時間を費やし独学で努力したのですが、限界もあり歯がゆさや葛藤を感じていました。
「もっと結婚式を理解しているフローリストと結婚式を作りたい」から「できないなら自分がフローリストになろう」といった結論に至ったんです。

そんなとき東京から、「こんなウェディングを作りたい」と憧れの世界を実現するアートディレクターと、彼女のウェディングチームが会場撮影のために地元に来訪しました。
いてもたってもいられず、ウェディングチームのフローリストに「勉強させてほしい」と直談判したんです。
私は34歳。目標期間を2年間と決め技術を習得し、大好きな専門式場に戻ってこようと決めて、フローリスト修行に上京しました。

画像

学びのために飛び込んだ先は、アートディレクター・ワキリエさんが率いるウェディングチームのフローリスト、『mini et maxi flower design』の林さんですね。装花や空間デザイン、藤内さんの行動力と積極性に驚きます。上京後、フローリストとして学び、経験を積んでいった2年間はどんな日々だったのですか?

藤内 『mini et maxi flower design』 では、雑誌や式場の撮影や、トレンドのデコレーションを制作する現場に常に携われる日々は、刺激的な時間でした。
ひとつの空間やシーンを作りあげるために多くの人が関わっているのに、見事なまでの緻密な統一感と、完成度の高さに圧倒されたのです。

お花だけでなく各パーツの色や質感への細部へこだわり、各アイテムを自分の目で確認し、テーブルコーディネートはじめトータルバランスの全てを整える緻密な作業…。
同じ花でも、合わせる小物や器の素材、色味や色調で世界観は大きく変わります。同じ色でもトーンの違いで表情が変わるのです。

もちろん事前に、綿密にイメージし準備を進めます。しかし製作中に実物を確かめ、少しでも「違和感」があれば時間を惜しまず、妥協なしで大部分の変更もしばしばです。お花が入荷してから当日までの数日、夜なべの作業になるケースもあります。
しかし自分がよしと確信するまで妥協しない姿勢と技術、コツコツ仕上げてワクワクする幸せな時間は、私の心と人生に深く根付きました。

画像

藤内さんは東京で『mini et maxi flower design』だけでなく、同時に世界的に有名なフローリストが率いる『Christian Tortu(クリスチャン トルチュ)』でも働かれています。都内結婚式会場で、最も人気のあるパレスホテル東京の館内装飾やウェディング装花を手がけるショップですね。

藤内 『Christian Tortu(クリスチャン トルチュ)』では、パレスホテルのブランドに恥じない、トルチュの丁寧でスマート、ハイレベルな基本を学ばせていただきました。
お花の扱い方や打ち合わせから当日のセット、片付けに至るまで、ホテルでのめまぐるしい仕事量の中で、絶対にスタッフは妥協しません。そして人の心を浄化する、洗練された世界と空間が作り出されるのです。スタッフも世界も、すべてが大好きでした。

ただ、想像よりずっとずっと厳しい世界でしたね。
「このまま片付けで2年終わっちゃうのかな…」と現実に打ちのめされ愕然としていたとき、再度目標とゴールを決めて、私を育ててくれた恩師との時間は、一生忘れられません。
2年と決めていた勉強期間は2年半かかってしまったのですが、一流の人々の技術と魂を刻んで、36歳でフローリストとして以前在籍していた徳島の専門式場に帰って来られました。

画像

「結婚式を引き上げるのはプランナー」先輩の言葉からフリーランスの道へ

徳島の会場にいよいよ念願のフローリストとして復帰されました。ところが藤内さんはしばらくして、再度プランナーとしてフリーランスとして独立されています。どんな心境の変化があったのでしょうか。

藤内 フローリスト、そしてプランナー経験者として、2年半の間に吸収した技術や心は全て実践しました。
結婚式の資料を読み込み、新郎新婦と打ち合わせ、プランナーや現場スタッフと情報共有し、当日を迎えます。当日の朝からエンドロールまで、「今日の結婚式はどうだったのかな」とすべての現場に行ってふたりの様子と反応を見て確認しました。
新郎新婦やゲストが喜んでくれ、現場のスタッフは今までとのデコレーションの違いを実感し、楽しみにしてくれている。フローリストとして苦しみはあったけど、上回るやりがいがありました。

しかしあるとき、ある結婚式を見て愕然とし、プランナーに戻ると決意しました。
新郎新婦の希望を聞いてフローリストとしての自分の作りあげた世界観のテーマと、担当ヘアメイクが勧めた新婦様の装いは、あまりに大きく乖離(かいり)していたのです。
もちろん、担当ヘアメイクのすすめたメイク、髪型、衣装アレンジは、新婦様にとても似合っていました。
でも、ふたりが希望していた会場装飾を背景におさまったとき、違和感を拭い去るのは難しかったのです。

画像

藤内さんが東京で「世界観の統一に妥協しない」プロフェッショナルな技術と心を学び身に着けた結果、フローリストの立ち位置から、結婚式のレベルを向上するために求める別の問題が見えてきたんですね。

藤内 違和感に気づいてからはまた、悶々と悩む日々が始まりました。
おふたりにとって最高の結婚式の世界を作りたくてフローリストになったのですが、ヘアメイク、スタイリスト、カメラマン、司会、音響、フローリスト、シェフ、サービススタッフ…多くの人が関わり、作りあげるのが結婚式です。
では、私が東京の経験で得た、緻密で妥協のない、統一感のあるウェディングを作りあげるためには…?

そんなとき出会った、あるウェディングプランナーの言葉が、私の心に深く刺さりました。
「結婚式を引き上げるのはプランナー」
全てを把握できる立場として、点と点をつなぎ、トータルコーディネートをする。
おふたりが希望する世界観に基づいて、結婚式を作るひとすべてをまとめ上げ、ひとつにするのは、結局プランナーなのです。

結婚式とは、集まったゲストがふたりを深く知り、より好きになる一日です。そしてふたりにとって、結婚の先に何十年と続く人生の支えになる大切な日でもあります。
最高の一日にするためには、大勢の仲間が必要です。仲間を知識と技術、センスをフルに使ってまとめ上げるためには、プランナーに戻るしかないと気づきました。

フローリストのキャリアを積んで見えた問題点とそこで得た答えが、フリーランスのウェディングプランナーとして独立するきっかけになったのですか?

藤内 フローリスト時代、私の大好きな豊島の「海のレストラン」で、結婚式をしたい方が現れました。島のレストランウェディング実現を機に、ウェディング事業をスタートさせようとプロジェクトが始まったのです。
いままでお世話になった会場で培った大好きな仲間、自分の時間の8割を占めていたお花の仕事…手放して新しい道に進むのは、大きな不安もありました。
しかし、私にとって「次のステップに進みたい」「自分が愛する大切な場所で結婚式をつくりたい」といった気持ちが、フローリストからプランナーに戻る後押ししたのです。

画像

「島の魅力と住む人に敬意を」離島ウェディングの装花で大切にしている『調和』

藤内さんが結婚式を手がけるのは、直島、豊島、小豆島…アートの聖地として注目度の高い瀬戸内の離島。結婚式を専門的におこなう会場やつくり込まれたガーデンといった空間とはまったく違う、特殊な環境です。フローリストとしてどんな点を重視しているのでしょうか。

藤内 私が東京で学んできたのは完成度の高い華やかな空間です。もちろん世界観は大好きですが、島の結婚式で目指す方向とは、大きく変わってきます。
直島、豊島、小豆島…それぞれの島の景色、雰囲気にウェディングの空間が馴染むよう作っていく過程を、とても大切にしています。

もちろん、前提としておふたりの結婚式のコンセプトや、好きな世界観、島での結婚式を希望する背景はベースにあります。
そこに、私なりの「島で暮らす人への敬意」を折り込むのです。島を大切に思い、島を守る人たちの精神が息づくエッセンスを取り入れ、空間を作りあげていきます。

具体的には、島のバックグラウンドをどのように空間デザインや装飾に活かし、落とし込んでいきますか?

藤内 例えば豊島は素朴さが魅力の島。ありのままの自然のなかで、助け合って暮らす大切さが伝わってくる島です。訪れた方たちの中には「島にいると心が浄化されるようだ」と感じる人も多いのです。
だから、島の結婚式の空間を飾るには、野に咲く花の雰囲気の華奢な花をそっと添えていきます。島のもつ空気感を大切に、華美すぎず、心がすっとするお花が似合うのです。
華奢な花ばかりで華やかさに欠けないよう、天井からお花やキャンドルを吊るすといった空間を活かした装飾を取り入れます。

画像

藤内さんの手がけた過去のウェディングの装花を見せていただきました。結婚式の装花は普段見ない花々を多く飾って非日常観を出すシーンも多いのですが、藤内さんの作る世界は、都会にはないナチュラルさ、なつかしさにプラスして「心がすっとする」洗練された特別な空間だと感じます。

藤内 結婚式で使う花冠やリングピローといったウェディングアイテムの製作を、豊島に住む草木染のクリエイター作家『Veriteco(@veriteco)』さんのご夫婦に依頼しています。
実はおふたりの作品を取り入れて分かったポイントがありました。

おふたりは豊島の植物で染めた糸や布で製作を行います。リングピローを製作して頂く材料は、海辺で集めた流木や貝殻といった、ほとんど豊島で採れた自然の材料です。
作品の風合い、色合いが、どのおふたりの結婚式にも不思議としっくり馴染むのです。
理由を考え出た答えは、おふたりはすべてのアイテムを、豊島の景色と新郎新婦の人柄に合わせて制作を行っているからでした。

すべて島の材料で、ふたりのためだにあうよう作られた空間とアイテム。
美しい景色、美味しい料理、楽しい会話。
結婚式はシンプル、装飾は主張しすぎない。だけど、そこに島の人のチカラをプラスするだけで、結婚式と空間は最高に感動的なデコレーションになると気づかされました。

画像

「ウェディングをさらに学びよりよい結婚式を作りたい」こだわりの先にある未来

結婚式でゲストにとって大きな楽しみは料理や飲物ですが、非日常観を味わえる空間デザインも、新郎新婦の求める重要度はより高くなっています。「遠く離れた場所、離島で自分たちの希望は通るの?」と心配になる方もいるでしょう。おふたりの希望を納得のいくかたちとして表現・実現していくために、藤内さんの工夫やこだわりはありますか?

藤内 私は一般的なプランナーより、コーディネートやお花への知識と思いが強いんです。
ふたりの希望や想像をさらに超えられる、信頼し安心して任せてもらえる提案ができるよう、日頃から資料は大量に集め、知識や情報も常にアップデートしています。
インスピレーションシートを作成し、目でみて全体の雰囲気が分かるようイメージをおふたりと共有できるように工夫し、安心していただいています。

結婚式全体で考えたとき、会場を俯瞰で見て必要のない要素は絶対に入れないと、特に強くこだわっています。
自分の用意したアイテムや花も、できあがる空間をみて必要ない場合は省き、おふたりと島の魅力を洗練された空間に仕上げていく過程を経て、当日にはおふたりに驚き、心から喜んでいただけているのです。

画像

藤内 もちろん、おふたりの希望して作った空間や島の雰囲気にあうよう、装飾だけでなく衣装選びはかなり綿密に打ち合わせを行います。
打ち合わせだけでなく、衣装選びに私も同行しますし、手に取りやすい価格帯でおふたりと島の魅力にあった衣装を提案できるよう、サロンやブランドと幾つか提携しています。
また今年の秋は、会場装飾に合わせてオリジナルのナフキンを作ろうと決めているのです。

オリジナルのナフキン…!! 素敵ですね。ペーパーアイテムのデザインにこだわる方はよく聞きますが、ナフキンまでオリジナルで作れるのですか?

藤内 結婚式に携わる仕事は14年ですが、もともと新卒で入った会社はキャラクターグッズの企画・製造管理の会社でした。
モノづくりのノウハウをそこで経験したおかげで、オリジナルの引出物のラッピングやナフキンといった、結婚式に必要なペーパーアイテムは、おふたりのためにデザインしてすぐに制作できますよ。

藤内さんの結婚式の完成度の高さやこだわりは、藤内さんが歩んできたさまざまな経験に基づいて作られているのですね。

藤内 「やりたい」と思ったとき、人との出逢いのお陰で後押しされ転職を繰り返し、たどり着いたのが現在の仕事です。
働く楽しさ、この人のためなら!と思わせる人間力を身につける大切さ…たくさん学びました。
そして今では豊島・直島・小豆島でのウェディングのプロデュースの他に、高松の結婚式会場でプロデュースとデコレーター…装飾の責任者として携わらせて頂いています。

フリーランスとしての日々はプレッシャーがあり、試行錯誤しながらではあります。
ですが、結婚式を作る仕事はとても楽しいんです。
まだまだ良い知識、技術、心、出逢いを学んで、カタチにしていくのが目標です。

フリーウェディングプランナー【藤内留美】profile

画像

ウエディングプランナーとして徳島県の結婚式場で300組以上の結婚式を担当。会場専属の装花業者では対応しきれないデザインや装飾があると歯がゆさを覚え、フローリストの道へ。
Mini et maxi flower design(ミニ・エ・マキシ フラワーデザイン)やChristian Tortu(クリスチャン トルチュ)パレスホテル東京にて、結婚式のデコレーションの知識と経験を積む。

2017年にウェディングプランナー兼フローリストとして独立。現在は豊島に拠点をもち、実際に島の空気や島民の人柄に触れながら、それぞれの島の個性を生かしたウエディングをプロデュース。
「島での結婚式を通して、日々の暮らしの中で幸せを感じる瞬間を増したい」との思いから、ウェディングの中には、さりげなく島の日常や島の人との繋がりを感じるエッセンスを盛り込んでいる。

藤内 留美さんへ結婚式の相談など、
お気軽にお問い合わせください。

CONTACT
藤内 留美さんへ問い合わせる

この記事を書いたライター

カテゴリー